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02. 3つの Hyena 演算子

StripedHyena 2 の心臓部は、入力依存の畳み込み(input-dependent convolution) にもとづく Hyena 演算子 です。このページでは、Hyena の基本構造を数式で押さえたうえで、距離スケールの異なる3つの変種——SE・MR・LI——を見ていきます。

1. 入力依存の畳み込みという発想

Self-Attention は、全トークン対の関連度を QKQK^\top で計算します(Transformer参照)。これは強力ですが O(n2)O(n^2) です。

Hyena の発想は、「全対比較」の代わりに、長い畳み込みフィルタとゲーティングで系列を混ぜる ことです。畳み込みは高速フーリエ変換(FFT)を使えば O(nlogn)O(n \log n)、フィルタが短ければさらに軽く計算できます。鍵は、フィルタを 入力に応じて変調する(ゲーティングする) ことで、固定フィルタの CNN にはない表現力を得る点です。

2. Hyena 演算子の構造

元の Hyena(Poli et al., 2023)の演算子は、3つの「特徴量」q,k,vq, k, v を作り、ゲーティングと内部畳み込みで混ぜて、射影する という構造です。直感的には次のように書けます(* は畳み込み、\odot は要素ごとの積)。

q=hT(xW),k=hH(xU),v=hK(xP)q = h_T * (xW), \qquad k = h_H * (xU), \qquad v = h_K * (xP) y=[q(hG(kv))]My = \Bigl[\, q \,\odot\, \bigl(h_G * (k \odot v)\bigr) \Bigr]\, M

つまり、入力 xxdense 行列 W,U,PW, U, P で線形射影 し、それぞれ 短い畳み込み hT,hH,hKh_T, h_H, h_K で特徴量化(featurization) して q,k,vq, k, v を作ります。次に kvk \odot v内部フィルタ hGh_G で畳み込みqqゲーティング し、最後に dense 行列 MM で射影 して出力 yy を得ます。

論文の正確な表記(添字付き)

論文では、空間(チャネル)次元をギリシャ文字の上付き α,β\alpha, \beta、時間次元を下付き t,tt, t' で表し、次のように書きます。

qtα=Tttα(xtβWβα)ktα=Httα(xtβUβα)vtα=Kttα(xtβPβα)ytα=(qtβGttβktβvtβ)Mβα\begin{aligned} q^\alpha_t &= \mathsf{T}^\alpha_{tt'}\,(x^\beta_{t'} W^{\beta\alpha}) & k^\alpha_t &= \mathsf{H}^\alpha_{tt'}\,(x^\beta_{t'} U^{\beta\alpha}) \\ v^\alpha_t &= \mathsf{K}^\alpha_{tt'}\,(x^\beta_{t'} P^{\beta\alpha}) & y^\alpha_t &= \bigl(q^\beta_t\, \mathsf{G}^\beta_{tt'}\, k^\beta_{t'}\, v^\beta_{t'}\bigr)\, M^{\beta\alpha} \end{aligned}

ここで T,H,K,G\mathsf{T}, \mathsf{H}, \mathsf{K}, \mathsf{G}Toeplitz 行列(それぞれフィルタ hT,hH,hK,hGh_T, h_H, h_K, h_G による畳み込みに対応)、W,U,P,MW, U, P, Mdense 行列です。畳み込みが Toeplitz 行列の積として書けることは、04. ハードウェア対応カーネルで効率化の鍵になります。

入力 x射影 + 短畳み込み(featurization)q, k, v内部畳み込み h_G+ ゲーティングq ⊙ (h_G * (k⊙v))射影 M→ 出力 yどの畳み込みフィルタを使うかで Hyena-SE / MR / LI が分かれる
Hyena 演算子のデータフロー。「内部フィルタ hGh_G をどう作るか」が3つの変種を分ける(論文 Fig. 2.1 に対応)

元の Hyena では、外側のフィルタ hT,hH,hKh_T, h_H, h_K明示的(explicit)——CNN のように各要素が学習パラメータ——で、内部フィルタ hGh_G暗黙的(implicit)——基底関数やニューラルネットの出力として生成——でした。このため、Hyena 系は long convolution operator(長畳み込み演算子) とも総称されます。

論文の主張は、「すべての畳み込みが長く暗黙的である必要はない」「演算子はターゲットのハードウェアで高速に動くよう設計すべき」 というものです。ここから3つの変種が生まれます。

3. 3つの演算子:SE / MR / LI

3つの変種は、内部フィルタの長さと作り方 が違います。

SE短い明示的(長さ 4〜7)MR中程度・正則化(長さ 〜128)LI長い暗黙的(系列全体)局所中距離系列全体を集約
3つの Hyena 演算子のフィルタ長。捉える距離スケールが異なり、これらを組み合わせる(=マルチハイブリッド)

Hyena-LI(long implicit)

元の設計に最も近い変種です。外側のフィルタ hT,hH,hKh_T, h_H, h_K は短く明示的なまま、内部フィルタを 実指数の線形結合 として暗黙的に生成します。

ht=n=1dRnλnt1,Rn,λnRh_t = \sum_{n=1}^{d} R_n\, \lambda_n^{\,t-1}, \qquad R_n, \lambda_n \in \mathbb{R}

実数値の簡略版で、これにより 再帰的(recurrent)なパラメータ化に切り替えて、生成時に定数メモリ にできます(SSM のように、状態を持って1トークンずつ生成できる)。系列全体にわたる長距離の情報集約を担います。

Hyena-SE(short explicit)

すべての畳み込みが 短く明示的なフィルタ の変種です。フィルタが短ければ(論文の実験では 14 未満、最終的なスケール実行では 4〜7)、単純な明示的パラメータ化で十分収束します。

  • 短系列を含む幅広い入力域で speedup の鍵
  • 局所的な multi-token recall に優れる。
  • テンソルコア向けの実装で、全系列混合演算子の中で最高スループット
  • FFN(フィードフォワード層)の代替 としても使える。

Hyena-MR(medium regularized)

数百長の明示的フィルタをもつ変種です。長い明示的畳み込みは最適化が難しいのですが、単純な 指数減衰の正則化 で収束させます。

ht=h^tλαth_t = \hat{h}_t\, \lambda^{-\alpha t}

ここで h^t\hat{h}_t が学習パラメータ、α\alpha はチャネルごとに掃引(sweep)されます。filter grouping(03)とテンソルコア実装により、linear attention や状態空間モデルより大幅に高速 です。論文は「Hyena-MR は Hyena-LI に対して、sliding window attention が通常の attention に対するのと同じ関係」と表現しています——全域を見る代わりに、限られた窓を効率的に見る、という位置づけです。

4. FIR フィルタと効率的な生成

Hyena-SE と Hyena-MR のフィルタは FIR(有限インパルス応答, finite-impulse response) です。長さ h\ell_h の FIR フィルタ hh による因果畳み込みは、

yt=k=0h1hkxtky_t = \sum_{k=0}^{\ell_h - 1} h_k\, x_{t-k}

と書けます。出力 yty_t過去 h\ell_h 個の入力だけに依存 するのがポイントです。フィルタ長が有限なので、自己回帰生成のときも直近 h\ell_h 個の要素を保持すればよく、定数メモリ で済みます(sliding window attention と同様)。この yt=khtkxky_t = \sum_k h_{t-k} x_k という形が、04. ハードウェア対応カーネルで Toeplitz 行列の積として高速化されます。Hyena-LI も、前述のとおり再帰的パラメータ化に切り替えれば定数メモリで生成できます。

LLM とのつながり:効率化アーキの「いいとこ取り」
  • SE(短い FIR)= 局所パターンに強く、最速。FFN の代替にもなる。
  • MR(中程度 FIR)= sliding window attention 的な中距離。
  • LI(長い暗黙)= SSM/RNN 的な全系列集約・定数メモリ生成。
  • Attention= 長距離の精密 recall。

自然言語 LLM で個別に研究されてきた「効率化の各路線」を、1つのアーキ内で役割分担させて組み合わせる のがマルチハイブリッドの本質です。どれをどう積むか(block layout)が次の論点になります。

5. まとめ

  • Hyena 演算子は、射影 + 短畳み込みで q,k,vq,k,v を作り、内部フィルタ hGh_G とゲーティングで混ぜて射影 する構造。畳み込みは Toeplitz 行列の積。
  • SE(短・明示的)/ MR(中・正則化)/ LI(長・暗黙的) の3変種が、それぞれ局所・中距離・全系列をカバーする。
  • SE/MR は FIR で定数メモリ生成、LI も再帰化で定数メモリ。

では、これらの演算子をどう積み重ね、どう高速化するのか。次の 03. アーキテクチャ設計とスケーリング で、block layout・filter grouping・スループットを見ていきます。