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04. 機構的解釈可能性(SAE)

03. 変異効果予測で、Evo 2 が変異の影響を正確に予測できることを見ました。では、モデルは内部で 何を「理解」しているのでしょうか。このページでは、LLM 研究で発展した 機構的解釈可能性(mechanistic interpretability) の手法を使って、Evo 2 の"頭の中"を覗きます。

1. なぜ解釈するのか:ブラックボックス批判への回答

大規模言語モデルはしばしば「ブラックボックス(中で何が起きているか分からない)」と批判されます。しかし近年、スパースオートエンコーダ(sparse autoencoder, SAE) を使うと、モデル内部に 意味のある特徴(feature) が見つかることが分かってきました。

LLM とのつながり:Anthropic の Claude 解釈研究と同じ手法

「モデルの中間表現を SAE で分解して、人間が解釈できる特徴を取り出す」というアプローチは、Anthropic が Claude 3 Sonnet に対して行った研究("Scaling Monosemanticity", Transformer Circuits, 2024)で大きく注目されました。自然言語の Claude で「金門橋の特徴」のような単義的な特徴が見つかったのと同じ手法を、Evo 2 は ゲノム に適用しています。論文も Cunningham et al. や Anthropic の monosemanticity 研究(参考文献29–31)を直接引いています。

ポイントは 単義性(monosemanticity) です。モデルの個々のニューロンは複数の概念に反応する 多義的(polysemantic) で読みにくいのですが、SAE はこれを 「1つの特徴=1つの概念」 に近い形へほどいてくれます。

2. スパースオートエンコーダ(SAE)の仕組み

SAE は、モデルの中間表現(活性, activation)を入力として、疎な(ほとんどがゼロの)高次元ベクトル に符号化し、それを元の表現に再構成するように学習されます。発火する少数の次元それぞれが、解釈可能な特徴に対応します。

Evo 2 の活性(layer 26)多義的でそのままでは読めないSAE疎な特徴少数だけ発火(色付き)解釈可能な特徴の例プロファージ領域エクソン/イントロン境界α-ヘリックス/β-シート転写因子結合モチーフtRNA/rRNA・フレームシフト
SAE は Evo 2 の多義的な活性を、単義的で解釈可能な特徴に分解する(論文 Fig. 4a に対応)

論文では、Evo 2 の layer 26 の表現に対して Batch-TopK SAE を学習しました。学習データは複数の真核・原核ゲノムから均等にサンプリングした 10 億トークン です。

なぜ layer 26 なのか — 複数の層で SAE を訓練して特徴密度(feature density)を比べたところ、layer 26 は 低頻度すぎる特徴が少なく、発火頻度が 10310^{-3} 付近にピーク を持っていました(Extended Data Fig. 6c)。これは 疎でありながら汎化する 特徴がよく取れる、という望ましい性質です。発火が稀すぎる特徴は「特定の配列の丸暗記」に陥りやすく、逆に発火しすぎる特徴は「何にでも反応して意味をなさない」——その中間のスイートスポットを選んでいます。

Batch-TopK SAE の中身

SAE は活性 h\mathbf{h} を疎なコード z\mathbf{z} に符号化し、再構成 h^\hat{\mathbf{h}} を出します。

z=TopK(ReLU(Wenc(hb))),h^=Wdecz+b\mathbf{z} = \mathrm{TopK}\bigl(\mathrm{ReLU}(W_{\text{enc}}(\mathbf{h}-\mathbf{b}))\bigr), \qquad \hat{\mathbf{h}} = W_{\text{dec}}\,\mathbf{z} + \mathbf{b}

学習目標は「再構成誤差を小さくしつつ、発火する特徴を少数に保つ(疎性)」ことです。Batch-TopK は、各トークン個別ではなく バッチ全体で上位 K 個 の特徴だけを残す変種で、安定して単義的な特徴が得られます。WdecW_{\text{dec}} の各列が1つの特徴の「意味の方向」に対応します。

3. 特徴を生物学的概念に対応づける

学習された特徴(SAE の各次元)が何を意味するのかは、contrastive feature search(対照特徴探索) で突き止めます。これは「ある注釈(例:プロファージ領域)を含む配列セグメントで、特に強く発火する特徴を探す」手法です(Fig. 4 / Extended Data Fig. 7a)。こうして見つかった特徴を、論文では f/19746 のように f/ +通し番号 で表記します。

4. 発見された特徴のギャラリー

Evo 2 が 生物学的な注釈を一切与えられずに 学んでいた特徴は、DNA・RNA・タンパク質・組織構造の各レベルにわたります。

DNA レベル:可動性遺伝因子と遺伝子構造

  • プロファージ特徴(f/19746 — 細菌ゲノムに潜むファージ由来領域で発火。E. coli K12 のプロファージ(cryptic prophage CPZ-55 を含む)に反応します。興味深いのは、CRISPR アレイのスペーサー配列(過去に取り込んだファージ DNA の断片)でも発火する点です。しかも、スペーサーを スクランブル(並べ替え)しても発火 したことから、モデルはファージ配列を 丸暗記しているのではなく、「ファージらしさ」という概念を 関連付けて いると分かります。geNomad(専用ツール)がファージと認識しない領域でも、インテグラーゼやインベルターゼを含む箇所で発火しました。
  • ORF・遺伝子間・tRNA・rRNA 特徴 — オープンリーディングフレーム(ORF)、遺伝子間領域、tRNA、rRNA に対応する特徴も見つかりました。

タンパク質レベル:二次構造

DNA を学習しただけのモデルが、タンパク質の立体構造に対応する特徴まで持っていました。α-ヘリックスf/28741)と β-シートf/22326)に対応する特徴です。論文では、これらの特徴の活性を AlphaFold 3 が予測した立体構造(EF-Tu と tRNA の複合体、RpoB–RpoC 複合体)に重ね合わせ、構造要素と一致することを示しています(Fig. 4d)。

これは「マルチモーダル」な理解

DNA 配列だけを入力に学習したのに、その内部表現は RNA(tRNA/rRNA)やタンパク質の高次構造(α/β) にまで及んでいました。セントラルドグマ全体を貫く情報が、DNA という単一のモダリティの学習から立ち上がっている——ゲノム言語モデリングの奥深さを示す結果です。

変異感受性・制御・遺伝子構造(ヒトゲノム)

ヒトゲノムに解析を広げると、さらに多様な特徴が見つかりました。

  • フレームシフト特徴(f/24278 — フレームシフトや早期終止のような 重篤な変異 で優先的に発火(影響の小さい変異タイプより強く反応)。
  • 転写因子結合モチーフ — ヒトプロモーター配列で、既知の転写因子(TF)結合部位に酷似した DNA モチーフに反応する特徴。ランダムに選んだヒトプロモーターで、Evo 2 の教師なし SAE 特徴は HOCOMOCO v12 CORE データベースの promoter-enriched モチーフの 70% にヒットしました(TOMTOM ツール, q < 0.01)。比較として、専用のモチーフ発見アルゴリズム HOMER は同じモチーフの 35% しか recall しません。
  • エクソン/イントロン境界 — コード領域(f/15680)、イントロン(f/28339)、イントロン後のエクソンの最初の塩基(f/1050)、イントロン前のエクソンの最後の塩基(f/25666)に対応する特徴。コード領域特徴は 細菌の ORF でも発火 し、コード配列の普遍的な表現を学んでいることを示します。
高次の配列依存性を捉えている

エクソン境界の特徴(f/1050, f/25666)は 複数塩基にまたがるスプライス部位 の信号を統合し、プロファージ特徴(f/19746)は キロベース規模の文脈 を必要とします。これは、Evo 2 が単なる局所パターンではなく、長距離の高次な配列依存性 を学んでいる証拠です(02 の長文脈設計が効いています)。

種を超える転移:ウーリーマンモス

これらの特徴は、霊長類・マウス・アフリカツメガエル・ショウジョウバエといった モデル生物だけ で学習した SAE から得られたものです。それにもかかわらず、同じ特徴が ウーリーマンモス のゲノム領域にも転移して機能しました(Fig. 4g)。SAE が学んだ特徴が 種を超えて一般化 し、ゲノムアノテーションに使える可能性を示します。

5. 特徴は本物か:定量評価と因果性

「人間が解釈できる特徴が見つかった」だけでは不十分です。論文はそれが 本当に意味のある対応なのか を、定量と対照実験で検証しています。

特徴を生物学的注釈に対応づける手法です(Extended Data Fig. 7a)。「ある注釈(例:プロファージ)を 含む 領域」と「同じ長さの 含まない 領域」で発火を比べ、前者で強く発火する特徴 を探します。対応の良さは AUROC で定量します(例:プロファージ特徴は geNomad が注釈したファージ領域で高 AUROC, Extended Data Fig. 7b)。

CRISPR スクランブル対照実験(Extended Data Fig. 7c)

本ページ前半で「プロファージ特徴はファージを丸暗記ではなく概念として捉えている」と述べました。その根拠が一連の対照実験です。

  • スペーサー配列を スクランブル(並べ替え)しても発火は消えない → 配列そのものの記憶ではない。
  • CRISPR の direct repeat を一定のスクランブル配列に置換 すると、最初の2スペーサーで発火が消える → リピート構造という文脈に依存している。
  • リピートを 別のスクランブル配列に置換 しても発火パターンが崩れる。

「丸暗記」なら配列を崩した時点で発火が消えるはずです。そうならないことが、概念的な認識 の証拠になります。

F1・適合率・再現率・AUROC(Extended Data Fig. 7f,g / 8d,e)

ORF・tRNA・rRNA・タンパク質二次構造(α/β)・エクソン/イントロン境界などの特徴は、対応する注釈に対して F1・適合率(precision)・再現率(recall)・AUROC で評価され、いずれも高い対応を示しました(ヒトゲノムでは無作為抽出した 1,000 遺伝子で塩基単位に評価)。

ablation による因果性(Extended Data Fig. 7h)

特徴が「相関」だけでなく 因果的に下流で効く かも検証されています。生物学的要素に高い F1 を持つ特徴を ablate(無効化) すると、モデルの クロスエントロピー(CE)が増加 しました。つまりその特徴は、予測に 因果的に寄与 しています(単なる副産物ではない)。

専用ツールとの比較(Extended Data Fig. 8f)

転写因子モチーフの検出では、Evo 2 の教師なし SAE 特徴を recall–FDR 曲線 で専用アルゴリズム HOMER と比較し、Evo 2 が上回りました。本編で触れた「HOCOMOCO の 70% にヒット vs HOMER 35%」を裏づける解析です。

LLM 解釈研究との対応

「特徴を ablate して下流への因果的寄与を測る」「対照実験で丸暗記か概念かを切り分ける」といった検証は、Anthropic の Claude 解釈研究でも使われる標準的な手法です。Evo 2 は、これらをゲノムの特徴に対して丁寧に適用しています。

6. まとめ

  • Evo 2 は、生物学的なラベルを与えられずに、プロファージ・ORF・tRNA/rRNA・α/β 構造・転写因子モチーフ・エクソン境界といった 多彩な生物学的特徴 を内部に獲得していた。
  • これらは LLM 研究と同じ SAE × 単義性 の枠組みで取り出され、Anthropic の Claude 解釈研究と地続きの成果である。
  • 特徴は 丸暗記ではなく概念の関連付け(CRISPR スペーサー)であり、長距離依存 を捉え、種を超えて転移 する。
  • 論文は SAE モデルと可視化ツール(Evo Mech Interp Visualizer) を公開し、コミュニティが特徴を探索できるようにしている。

「理解」しているモデルは、当然「創り出す」こともできます。次の 05. ゲノムスケール生成 では、Evo 2 が新しい DNA 配列を生成する能力を見ていきます。